中小企業が押さえておきたい「AI事業者ガイドライン」とは ~AIの利活用が進む今、経営者が知っておくべきポイント~

2025年3月28日、総務省と経済産業省が共同で「AI事業者ガイドライン(第1.1版)」を公表しました。生成AIの急速な普及を背景にAIをビジネスで活用する機会が増える中、中小企業の経営者としてもこのガイドラインの内容を理解し、自社のAI活用に役立てることが求められています。
本記事では、このガイドラインの目的と全体像を解説したうえで、AI利用者(Business User)として知っておくべきポイントをわかりやすくまとめてご紹介します。

目次

ガイドライン策定の背景と目的

AI技術は業務効率化・新たなサービス創出・顧客対応の自動化など、さまざまな可能性を秘めています。一方で偽情報の拡散・差別的出力・プライバシー侵害など新たなリスクも指摘されており、社会的信頼を得るためには「安全・安心なAI活用」が不可欠です。こうした背景から、「AIを安心して活用できる社会」を目指し、事業者が自発的に取り組むべき行動指針として策定されたのが本ガイドラインです。
このガイドラインでは、

  • AI開発者
  • AI提供者
  • AI利用者(本記事の対象)
    という3つの立場に分けて、それぞれの役割と注意点が示されています。

👉 AI事業者ガイドラインはこちら

AI利用者とは?中小企業にも関係あるの?

AI利用者とは、AIを業務に導入・利用する立場の事業者を指します。例えば以下のようなケースが該当します。

  • 業務支援として生成AIツール(ChatGPTなど)を使っている
  • AI搭載のSaaSツール(営業支援、チャットボット等)を導入している
  • AIによる自動応答システムやレコメンド機能をウェブサイトに取り入れている

つまり、「AIを自社開発していない企業」であっても、業務にAIを使っていれば“利用者”です。中小企業でも例外ではありません。

中小企業経営者が知っておくべき「7つのポイント」

ガイドラインでは、AI利用者に求められる具体的な配慮や行動の指針が示されています。特に重要な7つの観点を、中小企業経営者の立場で簡潔に解説します。

1. 人間中心の利用を意識する

AIを使うことで判断や意思決定が加速されますが、最終的な責任は人間にあります。社員や顧客の尊厳を尊重し、自動化に頼りすぎず、人の関与を残すことが重要です。

2. AIの出力結果を鵜呑みにしない

生成AIはあたかも正確そうに見える文章を出力しますが、誤情報(ハルシネーション)も少なくありません。出力された情報は必ず人間がチェックする体制を整えましょう。

3. 顧客に対する説明責任

例えば、AIを活用した問い合わせ対応を導入した場合、それがAIによる応答であることを明示する必要があります。顧客が安心して使えるよう配慮しましょう。

4. データの取り扱いに注意する

AIを使う中で、顧客データや個人情報を扱う場面も出てきます。プライバシー保護の観点からも、データの管理責任を明確にし、不正な使用を防止する措置が求められます。

5. セキュリティ対策を講じる

AIツールや外部サービスを使う場合でも、自社のネットワークや端末がサイバー攻撃に耐えうる状態か確認しましょう。パスワード管理、アップデート、アクセス権限管理などの基本対策は必須です。

6. 社内でAIリテラシーを育てる

AIを使う社員が、AIの特性やリスクを理解していなければ、誤用のリスクが高まります。最低限の「AI教育」を行い、全社的なリテラシー向上を目指しましょう。

7. イノベーションを阻害しない使い方を

過度な規制や社内ルールがAI活用の足かせにならないように注意が必要です。ガイドラインはあくまで「ソフトロー」(法的拘束力のない推奨)であることを理解し、自社に合った柔軟な対応が求められます。

チェックリスト活用でリスク確認を

別添資料(別添7)には、AIの導入・利用時に確認すべき事項をチェックできるリストも掲載されています。中小企業でも以下のような使い方が可能です。

  • 導入前に「社内でリスク検討は済んでいるか?」を確認
  • ツール選定時に「提供元の説明は明確か?」を確認
  • 社員に「適切な使い方・禁止事項は伝わっているか?」を確認

おわりに:AI活用は“攻め”と“守り”の両立がカギ

中小企業にとってAIは「業務効率化」や「競争力強化」の切り札にもなり得ますが、リスクを無視した導入は企業の信頼を損なう結果にもつながります。「AI事業者ガイドライン」は技術や法規制の動向をふまえた最新の道しるべです。まずは“利用者”としての基本を押さえ、小さく試して大きく育てる。そんなステップが今、中小企業にも求められています。

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