2025年版 デジタル社会実現に向けた重点計画:中小企業経営者が知るべきポイント

2025年6月13日、政府は「デジタル社会の実現に向けた重点計画」を閣議決定しました。この計画は、AIやデジタル技術を社会全体で徹底的に活用し、日本をデジタル社会へと変革していくための羅針盤となるものです。 中小企業の経営者の皆様にとって、この計画は単なる政府の方針ではなく、事業運営の効率化、新たなビジネスチャンスの創出、そして持続的な成長を実現するための重要な手がかりとなります。
今回は、この重点計画から中小企業の皆様が特に注目すべきポイントを分かりやすく解説します。
行政手続きのデジタル化で業務効率を大幅アップ
政府は、事業者向け行政手続きのデジタル完結を強く推進しています。これは、これまで煩雑だった行政手続きから中小企業を解放し、本業に集中できる環境を整えることを目指しています。
- 事業者向けポータルの整備:2026年度以降の正式提供を目指し、事業者が行政手続きや補助金情報をワンストップで検索・申請できるポータルが構築されます。必要な情報を探す手間が大幅に削減されるでしょう。
- GビズIDの利用拡大:法人共通認証基盤であるGビズIDの活用がさらに拡大します。2026年度中には商業登記電子証明書との連携も進められ、民間サービスでの認証機能としての利用も検討されます。これにより、多岐にわたる行政サービスへのアクセスが簡素化され、さらには企業間取引における認証機能としても期待されます。
- 補助金申請の電子化が原則に:2025年度以降、全ての事業者向け補助金の申請が電子申請に原則対応する方針が示されました。Jグランツでは代理申請機能も追加されており、補助金の申請がより効率的に行えるようになります。
- ベース・レジストリ(公的基礎情報データベース)の整備:法人に関する基本情報が「法人ベース・レジストリ」として整備され、2026年3月までに運用開始を目指します。これにより、行政手続きにおける添付書類(例:登記事項証明書)の省略や公用請求の代替が可能となり、手続きの負担が軽減されます。
- 国税関係手続きのデジタル化:税務手続きのUI/UX改善やキャッシュレス納付の普及が図られます。マイナポータルを活用した確定申告の利便性向上も進められ、税務処理の効率化に繋がります。
- 電子契約の普及促進:公共工事や業務における電子契約システムの効率化と利便性向上が図られ、電子契約の普及が促進されます。官民取引や企業間取引のデジタル完結を目指す動きも加速します。
- マイナンバーカードの民間活用:マイナンバーカードは「デジタル社会のパスポート」と位置付けられ、民間ビジネスでの活用も積極的に推進されます。チケットの不正転売防止、酒・たばこ販売時の年齢確認、デジタル資格証明など、新たなユースケース創出に向けた実証実験が行われています。また、マイナポータルAPIを通じて健康・医療データなどを取得できるようになり、ウェブサービス提供者に新たな機会をもたらします。
これらのデジタル化の推進は、中小企業の皆様にとって、行政手続きにかかる時間とコストを削減し、業務効率を大幅に向上させる大きなメリットをもたらすでしょう。
新たなビジネスチャンスの創出
重点計画では各分野でのDX(デジタルトランスフォーメーション)推進とデータ活用を重視しており、中小企業の皆様にとって新たなビジネス機会が生まれる可能性を秘めています。
- 「公共SaaS」市場の本格化:政府は、行政機関が民間事業者のSaaS(Software as a Service)を利用する形態を「公共SaaS」と定義し、その整備・活用を支援する方針を明確にしました。さらに「デジタルマーケットプレイス(DMP)」を通じて、国や地方公共団体が優れたクラウドソフトウェアを迅速・簡易に調達できる仕組みが展開されます。これは、SaaSを提供する中小企業にとって、政府・自治体市場への参入障壁が下がり、大きなビジネスチャンスとなります。デジタル庁は、スタートアップや地域ベンダーの参入を支援するための開発環境も提供する予定です。
- 地域・分野別DX推進:
- 防災DX:災害時に民間のデジタル人材が地方公共団体を支援する「災害派遣デジタル支援チーム(仮称)」制度が2025年度に試行運用を開始します。また、「防災DXサービスマップ/カタログ」の拡充や「モデル仕様書」の公表を通じて、地方公共団体による防災DXサービスの円滑な調達が図られます。
- 医療・介護IT:病院情報システムのクラウド化が進められ、特に中小規模医療機関向けの標準仕様策定が2025年度に目指され、2026年度以降の民間事業者による開発が期待されます。また、PHR(Personal Health Record)サービスの普及が推進され、民間事業者の参入機会が生まれます。
- 子育てアプリとの連携:子育て支援施策の情報提供において、民間の子育てアプリとの連携が可能となる仕組みが2025年度中に実現を目指します。
- 観光DX:観光地経営の高度化を目指し、デジタルツールの導入支援やデータ活用による地域活性化モデルの構築が推進されます。
- その他:地域交通DX、スマートシティ、上下水道DX、空き家対策のDXなど、様々な分野でデジタル技術を活用した取り組みが進められ、各分野に特化したソリューションを提供する中小企業に新たな需要が生まれるでしょう。
- AI活用とデータ連携エコシステム:政府は、地方公共団体と民間事業者の協業を加速し、AIサービスの開発を推進します。また、プライバシーや機密データを含む日本のデータをAI学習に活用できるよう、安全なデータ連携によるAI技術の研究開発を進めています。サプライチェーン全体の効率化・強靱化を可能とするデータ連携事例の創出も促されており、データ関連サービスやAIソリューションを提供する中小企業にとって、市場が拡大する可能性があります。
- Web3技術の地方活用:「web3技術の活用による地方に眠る価値のグローバル価格化」という先進的な取り組みも推進されます。これは、地域資源の新たな価値創出と国際展開を目指すもので、Web3関連技術を持つ中小企業にとって将来的なビジネスの芽となるかもしれません。
中小企業に求められる対応と政府の支援
デジタル社会の実現は、政府だけでなく、企業、特に中小企業の皆様の積極的な取り組みが不可欠です。
- デジタル人材の確保・育成:日本はAI等の新技術に専門性のある人材が不足しているという課題に直面しています。政府は2026年度までに230万人のデジタル人材育成を目指していますが、中小企業においても、社内のデジタルスキルの向上や外部人材の活用が急務となります。
- レガシーシステムのモダン化:企業のIT資産とDX・モダン化の進行度を可視化し、企業が取るべき対策を示すガイドラインや自己診断ツールが整備される予定です。既存の古いシステム(レガシーシステム)を刷新し、現代のデジタル環境に適応させることは、生産性向上とセキュリティ確保のために避けて通れない課題です。
- サプライチェーン全体のサイバーセキュリティ対策強化:サイバー攻撃の脅威が増大する中、サプライチェーンを構成する企業全体でのセキュリティ対策強化が求められます。中小企業も、自社のセキュリティ対策だけでなく、取引先を含めたサプライチェーン全体での対策を見直す必要があります。
- テレワークの推進:地方における労働力確保や地域活性化に貢献するため、テレワークの推進が図られます。中小企業がテレワークを導入・定着させることで、多様な働き方を可能にし、人材確保に繋がる可能性があります。
まとめ
「デジタル社会の実現に向けた重点計画」は、日本の未来を形作る上で極めて重要な指針です。中小企業の皆様にとっては、行政手続きの簡素化による「守りのDX」だけでなく、新たな技術や政府の取り組みを積極的に活用することで「攻めのDX」を実現し、競争力を強化する大きなチャンスが到来しています。 変化を恐れず、このデジタル変革の波を捉え、持続可能な事業運営と成長を目指して、ぜひこの計画の内容にご注目いただき、具体的な行動へと繋げていただければ幸いです。
※本記事の内容は、デジタル庁が2025年6月13日に公開した「デジタル社会の実現に向けた重点計画」に基づいて構成・要約しています。