企業の未来を左右する最重要課題：「レガシーシステム」に、今こそ経営と現場で向き合う時

2025年5月28日、経済産業省からレガシーシステム脱却に向けた「レガシーシステムモダン化委員会総括レポート」が発表されました。
このレポートは単に技術的な課題を論じているわけではありません。日本企業の経営層、そしてビジネス部門・情報システム部門の責任者、さらにはソフトウェア開発に携わるすべての関係者の皆様に向けて、自社の、そして日本の産業全体の未来を左右する、待ったなしの最重要課題について深く提言するものです。
なぜ、今改めて「レガシーシステム」がこれほど重要な課題として取り上げられているのか？そして、このレポートが想定する読者の皆様にとって、なぜ必読と言えるのか？ レポートの内容を基に、その核心をお伝えします。

警鐘鳴らされた「2025年の崖」迫る中で、依然遅れるレガシーシステムからの脱却

レポートでは、2018年の「DXレポート」で指摘された「2025年の崖」が迫る中、産業界におけるDX（デジタルトランスフォーメーション）およびレガシーシステムからの脱却の進捗が依然としてスピード感を欠いている現状が示されています。
レガシーシステムとは、一言でいうと「運用維持保守や機能改良が困難な状態に陥り、経営・事業戦略上の足枷、高コスト構造の原因となっているシステム」です。古い技術や開発手法、システムの肥大化や複雑化、ブラックボックス化、そして十分なIT投資がなされなかったことなどが原因となります。 この「レガシーシステム」が足枷となり、何が起きているでしょうか。

• 最新技術の活用を阻害：生成AIなどの最新デジタル技術を活用しようにも、既存システムとの連携や組み込みがスムーズに進みません。
• 維持コストの増大と競争力低下：レガシーシステムの維持管理にコストとリソースが取られ、競争力強化のための新しいビジネスやサービス開発への投資が滞ります。
• 変化への対応力不足：市場の変化や顧客ニーズに迅速に対応するためのシステム改変ができず、企業の競争力が低下します。
• 人材問題：古い技術に対応できる人材の高齢化・減少に加え、新しい技術に対応できるIT人材の不足も深刻です。IT人材の需給ギャップは、産業分野全体でユーザー企業の需要に対してベンダー企業の供給が66%の充足率に留まるという試算もあります。

これらの問題が続けば日本の産業競争力はさらに低下し、「2025年の崖」として指摘された大きな経済損失につながるリスクが高まります。これは企業の存続にも直結する、非常に現実的な危機なのです。

このレポートは「誰」のために書かれたのか？ なぜ「あなた」が読むべきなのか？

本レポートは、この深刻な状況に対し具体的な課題と対策の方向性を示すために取りまとめられました。その想定対象読者は明確に定義されています。

1. 企業の経営層（CxO・役員など）の皆様
   • 本レポートは、皆様が自社のビジネス戦略や情報システム戦略の策定、およびIT投資に関する重要な意思決定を行うための参考にすることを強く推奨しています。
   • レガシーシステム問題は、個別部門ではなく経営トップの覚悟と強力なコミットメントなしには進まない、全社的な課題です。ITをコストと捉える意識を改め、経営課題として認識する必要があります。
   • 自社だけでなくサプライチェーン全体への悪影響のリスクも理解し、自律的な意思決定でモダン化を推進することが求められます。
2. ビジネス部門および情報システム部門の責任者の皆様
   • 本レポートは、皆様が自社のビジネス戦略とシステム戦略を連動させ、整合を保って実行を推進するための参考にすることを推奨しています。
   • 情報システム部門は運用維持保守にかかりきりになりがちですが、事業部門と連携し企業全体の戦略を踏まえたIT投資の検討が不可欠です。
   • システムの可視化や内製化を進めることでブラックボックス化を解消し、経営層への具体的な説明や迅速な意思決定を可能にします。また、これには現場との協力関係も重要です。
3. ソフトウェア開発の関係者（エンジニア、コンサルタント等）およびソフトウェア分野に関心を持つ個人の皆様
   • 本レポートは、皆様がシステムのモダン化への理解を深めるための参考となります。
   • IT人材需給ギャップは深刻であり、皆様のスキルはますます重要になります。特に、アーキテクトやデータサイエンティストといった上流人材の育成・確保が必要です。
   • ベンダー企業の皆様には、従来のSIビジネスからの変革、すなわちユーザー企業の内製化支援や高度な技術領域への先鋭化が求められています。また、開発プロセスの自動化やテンプレート化による生産性向上も重要です。

つまり、このレポートは、自社のビジネスとシステム、そして自身のキャリアに深く関わる課題について、国としての問題提起と今後の方向性を示す、当事者である皆様自身のための羅針盤なのです。

レポートが示す、この課題への立ち向かい方

レポートでは、レガシーシステム問題克服に向けた鍵として、いくつかの重要な方向性が示されています。

• 経営層の意識変革と強力なコミットメント、ITガバナンスの強化：システム問題を経営課題として捉え、トップダウンで意思決定・推進する。CxOの設置も有効な手段の一つです。
• 情報システム部門の自律性向上、可視化・内製化の推進：IT資産の全体像把握、ブラックボックス化の解消、内製化できる範囲を拡大する。これには、経営層や事業部門との情報共有が不可欠です。
• 標準化対応の推進：現行業務の踏襲にこだわらず、パッケージやSaaSといった標準的なシステム活用を原則とする。特に中小企業にとってはオーダーメイド開発を避けるべきです。
• 人材需給ギャップへの対応：上流人材の育成や確保、代替技術（生成AIなど）の開発・活用、そしてユーザー企業とベンダー企業間での協力による人材のエコシステム構築も有効です。
• ベンダー企業の変革：従来の低位安定構造から脱却し、価値提供型ビジネスへの変革やユーザー企業の内製化支援、高度技術領域への先鋭化が重要です。

まとめ：行動を起こすのは、今です

レガシーシステム問題は単なる古いシステムの保守問題ではありません。それは、企業の競争力、収益性、そして持続可能性そのものに関わる、経営の根幹を揺るがす課題です。 政府はこの問題解決に向けた政策の方向性を示し始めています。自己診断ツールの整備や人材育成プラットフォームの構築といった支援策も検討されています。
しかし、最終的に行動を起こし変革を実現するのは、経営層、ビジネス部門、情報システム部門、そして開発現場で働く皆様自身です。 本レポートは、そのための重要な示唆と具体的な方向性を提示しています。ぜひ、レポートをご確認いただき、自社の現状と照らし合わせながら、レガシーシステムからの脱却、そして真のDX推進に向けた第一歩を踏み出してください。 「レガシーシステムモダン化委員会総括レポート」は、以下よりご確認いただけます。  このレポートが、皆様の企業変革のきっかけとなることを願っています。

経済産業省 ニュースリリース：レガシーシステム脱却に向けた「レガシーシステムモダン化委員会総括レポート」を取りまとめました
・レガシーシステムモダン化委員会総括レポート（本文）（PDF形式：4,616KB