【日本の未来を決める?】知的財産推進計画2025とは?

皆さん、普段の生活の中で「知的財産」という言葉を耳にすることはありますか? 特許や著作権、ブランドなど、意外と私たちの身近にあるものです。実は今、日本の未来にとって、この「知的財産」がものすごく重要になっているんです。 2025年6月3日に内閣の知的財産戦略本部は、「知的財産推進計画2025 ~IPトランスフォーメーション~」という新しい計画を決定しました。この計画は今後私たちが豊かに暮らしていくために日本の「知恵」や「アイデア」をもっと活かしていこう!というものです。 今回はこの計画のポイントを分かりやすくお伝えしたいと思います。

目次

そもそも、なぜ今「知的財産」がそんなに重要なのか?

日本はこれまでも知財戦略を進めてきましたが、国際的な競争力は残念ながら長期的に低下傾向にあるとされています。例えば、世界のイノベーション力を示すグローバルイノベーション指数(2024年)では13位で、韓国(6位)や中国(11位)に遅れを取っています。
その一方で、日本にはコンテンツ産業(アニメ、ゲームなど)やクールジャパン関連産業といった、世界に誇れる強みがあります。これらの産業は大きく発展していますが、海外での収益拡大には知財マネジメントの高度化が必要だと指摘されています。
さらに、この先10年を見据えると、日本の人口が減って新しいアイデアを生み出す人材が減ったり、国内の市場が縮小したりすることが予想されています。そんな中で、AI技術はものすごいスピードで進化し社会の仕組みも大きく変わっていくことが想定されています。 このような状況だからこそ、日本の技術力、コンテンツ力、国家ブランド力といった「知的資本」を最大限に活かし、グローバルな競争に勝ち抜き、国内外の様々な社会課題を解決していくことが求められているのです。

計画の目玉「IPトランスフォーメーション」って何?

この計画のタイトルにもなっている「IPトランスフォーメーション」とは、まさにこの「知的資本」を活かして、国内外の社会課題を解決する「新たな知的創造サイクル」を構築することを指しています。 新しいアイデア(創造)を生み出し、それをしっかりと守り(保護)、そして社会で役立てて稼ぐ(活用)というサイクルを、グローバル規模で力強く回していこうということです。 この「IPトランスフォーメーション」を実現するための3つの柱が掲げられています。

1. イノベーション拠点としての競争力強化

これは、日本を世界中の優秀な人材や新しいアイデア、お金が集まる「イノベーションハブ」にしようという取り組みです。

  • 創造人材の強化・ダイバーシティの実現:人口が減る中で、海外からのトップレベルの研究者や起業家、クリエイターといった「創造人材」を日本に呼び込み、性別、年齢、国籍など多様な人々が一緒にイノベーションを起こせる環境を作ります。
  • 知財・無形資産投資の促進:企業が持つ技術やブランド、ノウハウといった「見えない資産(無形資産)」への投資をもっと増やします。日本の企業は、アメリカなどに比べて時価総額に占める無形資産の割合が低いとされているため、これを高めて企業価値を向上させ、研究開発が単なる「費用」ではなく「資産」と捉える考え方を広げていきます。
  • 国際的に求心力のある知財制度・システムの実現:海外からも特許出願が増えるような、国際的に魅力的な知財のルールや仕組みを整備していきます。

2.AI等先端デジタル技術の利活用

これは、AIをはじめとする新しい技術を積極的に使って、創造活動やビジネスを効率化・加速させようという取り組みです。

  • AIの市場は世界でも日本でも大きく伸びていますが、日本の企業では生成AIの活用がまだ海外に比べて進んでいない現状があります。
  • この計画では、AIの活用で生産性向上や創造活動の迅速化を図り、人口減少下でも強い経済のサイクルを作ります。
  • 同時に、生成AIには著作権侵害などの懸念も指摘されているため、法、技術、契約を組み合わせて、技術の進歩と知財の保護が両立する仕組みを目指します。
  • また、AIを使った発明が増える中で、誰が「発明者」となるのか、その考え方を明確にするための検討も進めます。

3.グローバル市場の取り込み

これは、少子高齢化で国内市場の伸びが期待できない中、成長し続ける海外市場を積極的に獲得していこうという取り組みです。

  • 「新たなクールジャパン戦略」の推進:アニメ、ゲーム、食といった日本の魅力あるコンテンツ(クールジャパン)を核として、海外でのビジネスを拡大していきます。
  • 「新たな国際標準戦略」の推進:世界共通のルールである「国際標準」を戦略的に活用し、日本の技術やサービスを海外に広げ、市場を獲得していきます。環境・エネルギー、デジタル・AI、バイオエコノミーなどの重要な分野に力を入れて取り組みます。

私たちの暮らしにも関わる重点施策は?

この計画には、創造、保護、活用の各段階で様々な具体的な施策が盛り込まれています。その中には、私たちの仕事や生活に深く関わってくるものもあります。

  • 海賊版・模倣品対策の強化:インターネット上で増え続ける日本のマンガやアニメなどの海賊版サイトへの対策を強化します。国境を越えた対策や、サイト運営者の特定が難しい状況に対応するため、官民一体で取り組むことが重要とされています。また、ネット通販などで増える模倣品の流入を防ぐため、税関での取り締まりなども強化されます。
  • 地域における知財保護:地方の中小企業や農林水産業が持つ技術、ノウハウ、ブランドといった「知財」をビジネスに活かして「稼ぐ力」を高めるための支援を強化します。例えば、地域ならではの食品名などをブランドとして保護する地理的表示(GI)保護制度の活用を推進し、地域の活性化や輸出拡大につなげます。
  • 産学連携による社会実装の推進:大学で生まれた素晴らしい研究成果を企業やスタートアップと連携して、もっと社会で役立てられるように支援します。大学の知財をスムーズに活用するためのルール整備や専門家による支援なども進められます。
  • スタートアップ支援:新しい技術やアイデアで事業を始めるスタートアップ企業への知財面からの支援を強化します。知財戦略の専門家不足といった課題に対応するため、人材育成や専門家派遣などのプログラムが進められます。
  • デジタルアーカイブの推進:文化財やメディア芸術(マンガ、アニメ、ゲームなど)を含む様々なデジタルコンテンツの収集・保存・活用を進めます。これらのデジタル資産を検索・閲覧できるプラットフォーム「ジャパンサーチ」の拡充などを通じて、新しい創作活動や地域活性化、海外発信につなげていきます。

計画の目標(KPI)は?

この計画では、具体的な目標(KPI)もいくつか設定されています。

  • グローバルイノベーション指数で上位4位以内を目指します(2035年までに)。
  • 日本市場の時価総額に占める企業の無形資産の割合を50%以上に高めます(2035年までに)。
  • 日本のコンテンツ海外市場規模を20兆円に拡大します(2033年までに)。
  • クールジャパン関連産業全体の海外展開規模を50兆円以上にします(2033年までに)。
  • 日本のファン(「日本が大好き」な人)の割合を10ポイント上昇させます(各国・地域で、2033年までに)。

これらの目標達成に向けて、政府だけでなく、企業、大学、そして私たち一人ひとりが協力していくことが求められています。

まとめ

「知的財産推進計画2025」は、日本の強みである技術や文化、ブランドといった「知」を最大限に活かして、国際競争力を強化し、国内外の様々な課題を解決していくための重要なロードマップです。 計画のキーワードである「IPトランスフォーメーション」は、単に特許を取るだけでなく、私たちの身近にあるコンテンツ、地域資源、そしてAIのような新しい技術が生み出す可能性まで含めた「知」を、創造、保護、活用のサイクルで回していくことを目指しています。
この計画が着実に実行されることで、日本の経済が活性化し、新しい文化が生まれ、地域が豊かになり、そして私たちの日々の生活もより良いものになっていくことが期待されます。ぜひ、皆さんも「知的財産」が日本の未来を形作る上で、どれだけ大きな力を持っているのか、少し意識してみていただけると嬉しいです。

※本記事の内容は、内閣の知的財産戦略本部が2025年6月3日に決定した「知的財産推進計画2025」に基づいて構成・要約しています。

知的財産戦略本部 公式サイト
・知的財産推進計画2025
・知的財産推進計画2025の概要

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