「金利のある世界」と「人手不足時代」を生き抜くために – 2025年版中小企業白書を読む

2025年4月25日に「2025年版中小企業白書・小規模企業白書」が閣議決定されました。この年次報告は、中小企業基本法に基づき、令和6年度(2024年度)の中小企業の動向と令和7年度に講じる施策について国会に報告するものです。本白書を読むことで、中小企業・小規模事業者が直面している厳しい現実と、今後求められる経営の方向性、そしてそれを後押しする政府の施策の方向性が見えてきます。
特に中小企業の経営層の皆様にお伝えしたい、白書が示唆するポイントをまとめました。
令和6年度(2024年度)に中小企業が直面した「厳しい経営環境」
白書の第1部で詳細に分析されている令和6年度の動向は、中小企業・小規模事業者にとって引き続き厳しいものでした。主な要因は以下の通りです。
- 円安・物価高の継続
輸出より輸入比率が高い中小企業にとって、原材料やエネルギーのコスト増は利益を圧迫します。 - 30年ぶりの「金利のある世界」の到来
金利上昇は借入金依存度が高い中小企業にとって、支払利息の増加による利益下押しのリスクとなります。特に宿泊業、飲食サービス業などの借入金依存度が高い業種では影響が大きいと考えられます。また、中小企業は大企業に比べて有利子資産が少なく、受取利息の恩恵を受けにくい構造にあります。 - 構造的な人手不足の深刻化
人材確保は企業規模にかかわらず共通課題であり、最も重視する経営課題となっています。特に中規模企業や建設業で不足感が強い状況です。人手不足を背景に、業績改善が伴わない賃上げも増加しており、労働分配率が8割近くに達している中小企業にとっては、更なる賃上げの余力が厳しい状況にあります。 - 物価高や人手不足を要因とした倒産の増加
2021年を底に倒産件数は増加傾向にあり、2024年は1万件を超えました。物価高や人手不足に関連する倒産も増えています。
これらの要因が複合的に作用し、中小企業は従来のコストカット戦略が限界を迎えている状況にあります。物価、金利、人件費、そして構造的な人手不足は、待ったなしの課題として経営に重くのしかかっています。
厳しい環境下で「成長」を遂げるために中小企業に求められること
白書は、この激変する環境において、経営課題を乗り越え成長を遂げるためには自社の現状を把握して適切な対策を打つ「経営力」が求められると強調しています。そして、第2部では「新たな時代に挑む中小企業の経営力と成長戦略」に焦点を当て、厳しい環境変化を乗り越え、一定の企業規模への成長(スケールアップ)を実現するための具体的な取組について分析しています。
特に重要なポイントとして、以下が挙げられます。
- 付加価値や労働生産性を高める経営への転換
物価、金利、人件費の上昇、人手不足に対応するためには、コスト増を価格転嫁や生産性向上で吸収し、付加価値を高めることが不可欠です。 - 積極的な投資(設備投資、デジタル化・DX、イノベーション)
生産性向上、付加価値創出、スケールアップ実現に向けた積極投資が求められます。 - 「人」に関する戦略の強化
働きやすい職場づくり、賃金以外の魅力を伝える採用戦略、人材育成・定着、ダイバーシティ人材の活用がカギとなります。 - 経営管理の強化と透明性の向上
経営計画の策定・運用、財務管理、経営情報の可視化と共有を通じ、持続的な業績向上を図る必要があります。 - 外部連携とネットワーキング
異業種・広域ネットワークや外部支援機関の活用が経営力強化やイノベーション促進に有効です。 - 事業承継を機とした変革
経営刷新、M&Aや資本提携を含めた成長戦略として、事業承継を積極的に活用することが推奨されています。
令和7年度の中小企業施策の方向性
白書で示された令和7年度の中小企業施策は、こうした厳しい環境認識と成長戦略を踏まえています。
- 持続的賃上げ実現に向けた支援
- 人手不足・物価高対策(省力化投資、価格転嫁支援、資金繰り支援)
- 成長志向企業の創出・拡大(新規輸出支援、GX・DX対応)
- 事業承継、M&A推進
- 伴走支援・経営支援(専門家によるハンズオン支援、地域の人事部支援)
- 賃上げ促進税制など税制面での後押し
まとめ
2025年版中小企業白書は、円安・物価高、金利上昇、そして構造的な人手不足という厳しい現実に立ち向かう中小企業の姿を描き出しています。この困難を乗り越え、持続的な成長を実現するためには、従来の延長線上ではない、経営力の強化と積極的な行動が不可欠です。
この白書を単なる報告書としてではなく、自社の経営戦略を見直し、新たな挑戦への一歩を踏み出す羅針盤として、ぜひご活用ください。